保険税務の知識~法人保険「30万円特例」で全損化する条件をポイント解説

保険税務の知識~法人保険30万円特例で全損化する注意点とポイント解説

ご存知のとおり、2019年の法人税基本通達の改正により法人保険の損金計上ルールに大きな改正がありました。この改正により、節税商品として人気を集めていた保険商品は姿を消しました。しかしながら、この改正では「特例」も設けられることになりました。それが、法人税基本通達9-3-5の2及び、9-3-5の(注)2にある、いわゆる「30万円特例」です。改正後の「30万円特例」では2つの「全額損金」の枠が設けられています。以下にて、法人保険「30万円特例」で全損化する条件をポイント解説します。

 法令解釈通達第 3節 保険料等(定期保険及び第三分野保険に係る保険料)





法人保険「30万円特例」を適用できる2つの枠

以下のとおり、2019年7月8日より適用されている法人税基本通達で規定されている保険料を全額損金化できる「30万円特例」には2つの枠があります。ひとつは【解約返戻金がないかごくわずかな定期保険又は第三分野保険の短期払い】という枠と、もうひとつは【最高解約返戻率が50%超70%以下で年換算保険料が30万円以下の定期保険又は第三分野保険】という枠です。

上記2つについては「30万円特例」の適用条件を満たせば保険料の「全額損金化」が認められています。なお、前者の枠(解約返戻金がないかごくわずかな定期保険又は第三分野保険の短期払い)は法人税基本通達9-3-5にて規定されており、後者の枠(最高解約返戻率が50%超70%以下で年換算保険料が30万円以下の定期保険又は第三分野保険)は法人税基本通達9-3-5の2にてそれぞれ規定されております。

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法人税基本通達9-3-5の特例

まずは法人税基本通達9-3-5で規定されている【解約返戻金がないかごくわずかな定期保険又は第三分野保険の短期払い】についてです。下線を要約すると、解約返戻金のない(あってもごくわずか)定期保険や第三分野保険(医療保険・がん保険・介護保険等)については1被保険者につき年間保険料が30万円以下の場合には支払保険料の「全額損金」の処理を認める、という内容になります。

(定期保険及び第三分野保険に係る保険料)

9-3-5 法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする定期保険(一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする生命保険をいい、特約が付されているものを含む。以下9-3-7の2までにおいて同じ。)又は第三分野保険(保険業法第3条第4項第2号《免許》に掲げる保険(これに類するものを含む。)をいい、特約が付されているものを含む。以下9-3-7の2までにおいて同じ。)に加入してその保険料を支払った場合には、その支払った保険料の額(特約に係る保険料の額を除く。以下9-3-5の2までにおいて同じ。)については、9-3-5の2《定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い》の適用を受けるものを除き、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。

⑴ 保険金又は給付金の受取人が当該法人である場合 その支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。
⑵ 保険金又は給付金の受取人が被保険者又はその遺族である場合 その支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合には、当該保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。

(注)
1  保険期間が終身である第三分野保険については、保険期間の開始の日から被保険者の年齢が116歳に達する日までを計算上の保険期間とする。
2 (1)及び(2)段の取扱いについては、法人が、保険期間を通じて解約返戻金相当額のない定期保険又は第三分野保険(ごく少額の払戻金のある契約を含み、保険料の払込期間が保険期間より短いものに限る。以下9-3-5において「解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険」という。)に加入した場合において、当該事業年度に支払った保険料の額(一の被保険者につき2以上の解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険に加入している場合にはそれぞれについて支払った保険料の額の合計額)が30万円以下であるものについて、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときには、これを認める。

法人税基本通達9-3-5の2の特例

次に、法人税基本通達9-3-5の2で規定されている【最高解約返戻率が70%以下で年換算保険料が30万円以下の定期保険又は第三分野保険】についてです。下線を要約すると、最高解約返戻率が50%超70%以下で年換算保険料が30万円以下の定期保険又は第三分野保険(医療保険・がん保険・介護保険等)については支払保険料の「全額損金」の処理を認めるとの内容になります。

(定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い)

9-3-5の2 法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険(以下9-3-5の2において「定期保険等」という。)で最高解約返戻率が50%を超えるものに加入して、その保険料を支払った場合には、当期分支払保険料の額については、次表に定める区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。ただし、これらの保険のうち、最高解約返戻率が70%以下で、かつ、年換算保険料相当額(一の被保険者につき2以上の定期保険等に加入している場合にはそれぞれの年換算保険料相当額の合計額)が30万円以下の保険に係る保険料を支払った場合については、9-3-5の例によるものとする。(令元年課法2-13により追加)

通達9-3-5と9-3-5の2は別枠で適用

なお、上述した「30万円特例」はそれぞれ別枠で適用されます。つまり、「30万円特例」では【解約返戻金がないかごくわずかな定期保険又は第三分野保険の短期払い】の保険に加入したケースと、【最高解約返戻率が50%超70%以下で年換算保険料が30万円以下の定期保険又は第三分野保険】の保険に加入したケースとで支払保険料を全額損金化できる2つの「枠」が使えるということです。(それぞれ通算されない)

例えば、A社長が解約返戻金のない(あってもごくわずか)短期払いの「医療保険」に年間 25 万円で加入し、さらに最高解約返戻率が 50%超70%以下の「定期保険」に年間 25 万円で契約したとします。その場合、年間保険料は50万円になります。しかし、「30万円特例」では2つは別枠として運用されるので、「医療保険」も「定期保険」もその支払保険料(合算50万円)は「全額損金」で処理できるわけです。

  • A社長:「医療保険」加入・年間保険料 25 万円 … 全額損金
  • A社長:「定期保険」加入・年間保険料 25 万円 … 全額損金

見落としがちな「30万円特例」の盲点

また、「30 万円特例」には見落としがちな点もあります。それは「30 万円特例」は“契約者ベースである”ということです。よって、法人が複数ある場合はそれぞれの法人ごとに「30万円の特例」が使えます。中小企業や医療法人では「別会社」(MS法人)を持っているケースが多々あります。

例えば、中小企業の社長がA社の他にB社・C社という別会社の社長も兼任しているとします。その場合、社長は1被保険者としてA社で年間25万円の「医療保険」に加入し、B社で年間25万円の「がん保険」に加入し、C社で年間25万円の「介護保険」に加入しても、それぞれの会社で25万円(合算75万円)の支払保険料を「全額損金」として処理できるわけです。

  • A 社:「医療保険」加入・年間保険料 25 万円 … 全額損金
  • B 社:「がん保険」加入・年間保険料 25 万円 … 全額損金
  • C 社:「介護保険」加入・年間保険料 25 万円 … 全額損金

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法人保険「30万円特例」の注意点

法人保険の加入を検討している社長にとってみれば、支払保険料を「全額損金」にできるに越したことはありません。また、保険営業マンにしても「全額損金」というキーワードは社長に話をするうえでパワーワードになります。しかしながら、次のとおり、法人保険「30万円特例には注意点もあります。

  • 年間保険料は合算される
  • 保険商品としての節税効果は薄い
  • 税制改正以前の契約には適用されない

年間保険料は合算される

法人保険「30 万円特例」では同一契約者で1被保険者が複数契約する場合には保険料を合算する必要があります。仮に、合算保険料(他社契約含む)が30万円を超えた場合、30万円を超えた部分だけでなく、全額が「30万円特例」を適用できなくなります。この点は要注意です。

例えば、法人契約でA社が社長を被保険者にして解約返戻金のない(あってもごくわずか)「医療保険」に年間25万円、「がん保険」に年間25万円加入すると、合算保険料は年間 50 万円(年間25万円×2契約)になります。このケースでは両契約(医療保険・がん保険)とも「30万円特例」の適用を受けられず、保険料を「全額損金」にできなくなってしまうわけです。

  • 医療保険(年間25万円)のみに加入 → 全額損金
  • 医療保険 + がん保険(合計50万円)に加入 → 両契約とも全額損金

仮に、被保険者1人あたりの年間保険料の合計額が30万円を超えた場合には「年間保険料×保険料払込期間÷保険期間(※)」で求めた金額を支払保険料として損金に算入し、残りは資産として計上します。(※の保険期間は「116 歳-契約年齢」で計算)保険料の払込期間終了後は、被保険者が 116 歳になるまで「年間保険料×保険料払込期間÷保険期間(※)」で求めた支払保険料を損金に計上し、資産計上していた分の保険料を取り崩していく、という法人にとって複雑かつメリットの薄い経理処理になります。

保険商品としての節税効果は薄い

たしかに、「30万円特例」を適用すれば、支払保険料は「全額損金」で処理できます。しかしながら、現行の法人税実効税率は30%程度です。その一方で、「30万円特例」が適用される最高返戻率は70%以下ですから差し引きで考えると、“税の繰り延べ効果はない”といえるでしょう。

税制改正以前の契約には適用されない

法人保険「30万円特例」は令和元年7月8日以降に契約した保険契約が対象になります。そのため令和元年7月8日以前の契約では「30万円特例」を適用させた税制メリットを享受できません。ただし、保険商品によっては「更新」のあるものもあります。その場合は、新ルールによる運用になります。

この記事のまとめ

以上が法人保険「30万円特例」で全損化する条件のポイント解説です。社長は「全損」という言葉が好きです。儲かっている会社の社長ほど、「全損」という言葉にビビッと来ます。しかし、「令和」に入ってからの法人保険に関する税制ルールの改正により、「節税商品」は姿を消し、今では保険業界で「節税」という言葉を使うこと自体がタブー視されている風潮すらあります。

そんな中、本記事で紹介した「30万円特例」をうまく使えば、一定の制約条件はあるものの、正々堂々と「全額損金」を売りに保険プランを社長に販売することができます。とりわけ、従来より提案されていた『医療保険名義変更ププラン』などは1被保険者につき年間30万円以下の保険料であれば、継続してそのメリットが発揮されることになります。以下の実務ノウハウをぜひマスターしてください。