保険営業マン必見!今さら聞けない年金改革法案4つのポイント解説

保険営業マン必見!今さら聞けない年金改革法案4つのポイント解説

マスコミ報道等でご存知の方も大勢いるでしょう。令和7年6月13日、5年に1度の「年金改正法案」(「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のために国民年金法等の一部を改正する等の法律案」)が国会にて成立し、改正内容は令和8年4月1日より順次施行予定です。保険営業マンにとって本改正法案は重要な内容を含んでいますので、その点を見ていきましょう。ポイントは大きく4つあります。

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1.社会保険の加入対象の拡大

社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)の加入対象が拡大されます。今回の加入拡大のポイントは、以下の3つです。

  1. 短時間労働者の賃金要件を撤廃
  2. 短時間労働者の企業規模要件を段階的に撤廃
  3. 個人事業所の非適用業種を解消

A.短時間労働者の賃金要件を撤廃

現行制度では短時間労働者(パート・アルバイト従業員等)の社会保険加入要件はいわゆる“年収106万円の壁”として意識されていた“所定内賃金が月額8.8万円以上”になると、社会保険加入が義務付けられています。しかし、今回の改正法でこの賃金要件(106万円の壁)が撤廃されます。

賃金要件が撤廃される背景

賃金要件撤廃の背景のひとつに最低賃金の引き上げがあります。最低賃金が1,016円以上の地域では社会保険加入要件の1つである週の所定労働時間(20時間以上)働くと、必然的に賃金要件(月額8.8万円以上)も満たすことから、賃金要件の必要性が薄まってきているからです。そのため全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて、公布から3年以内の政令で定める日から施行される予定です。

B.短時間労働者の企業規模要件を段階的に撤廃

現行制度では短時間労働者(パート・アルバイト従業員等)の社会保険加入は“従業員数51人以上の企業に勤務している”ことが1つの要件となっています。しかし、この企業規模要件(従業員数51人以上の企業)は今回の改正法で次のように段階的に撤廃されます。

企業規模要件の撤廃スケジュール
従業員数51人
以上の企業
従業員数36人
以上の企業
従業員数21人
以上の企業
従業員数11人
以上の企業
すべての企業
現行制度2027年10月~2029年10月~2032年10月~2035年10月~

中小企業への影響

今回の改正法(企業規模要件の撤廃)で新たに社会保険加入対象となる短時間労働者(パート・アルバイト従業員等)は約70万人といわれています。社会保険料は労使折半です。となれば、約70万人分の社会保険料負担を中小企業は新たに強いられることになり、大きな負担となるでしょう。

C.個人事業所の非適用業種を解消

現行制度では個人事業主のうち、常時5人以上の者を使用する法定17業種(※)の事業所は社会保険適用事業所とされています。逆にいうと、常時5人以上の者を使用する法定17業種以外の事業所は社会保険の“非適用業種”でした。しかし、今回の改正法で全業種を適用対象とするよう拡大されます。

法定17業種

①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業

例えば、現行制度では「飲食業」「理・美容業」「宿泊業」「農業/漁業」であれば、常時5人以上の者を使用する事業所でも社会保険の“非適用業種”になります。しかし、改正後の2029年10月からは法定17業種に関わらず、常時5人以上の者を使用する事業所はすべからく社会保険適用事業所になります。

※ 2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外

そうなれば、個人事業主本人はもちろん、従業員の社会保険料負担(労使折半)が新たに生じることになり、該当事業所にとって大きな支出インパクトでしょう。

2.在職老齢年金制度の見直し

「在職老齢年金」の支給停止基準が緩和されます。「在職老齢年金」では年金と報酬に応じて年金の一部または全部が支給停止されてしまいます。現行制度では、次のとおり、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が51 万円を超える場合、51 万円を超えた金額の半分が年金額より支給停止されます。

現行制度の支給停止基準額の計算式

保険営業マン必見!今さら聞けない年金改革法案5つのポイント解説

改正後の支給停止基準額

しかし、今回の改正法で来年2026年4月1日より、次のとおり、「在職老齢年金」の支給停止基準額が“62万円”に引き上げられます。ただし、今回の改正条文では、令和6年度価格で62万円と定め、令和7年度以降の名目賃金変動率を乗じて毎年度改定することが規定されており、2026年4月1日の施行時には“62万円よりも高い基準額”で施行されることとなる見込みです。

改正後の支給停止基準額の計算式

保険営業マン必見!今さら聞けない年金改革法案4つのポイント解説

中小企業の社長は状況が異なる!

今回の改正法によって、20万人が新たに「在職老齢年金」(老齢厚生年金)を全額受給できるようになるとされています。しかしながら、中小企業の社長は状況が異なります。

例えば、年金月額12.5万円・報酬月額70万円(総報酬月額相当額65万円)の社長がいたとします。すると、たとえ改正後の支給停止基準額が62万円になっても、もらえる年金は本来もらえるはずの12.5万円から4.75万円に減額されてしまうのです。

  • 支給停止額7.75万円 =( 基本月額12.5万円+総報酬月額相当額65万円-62万円 )× 1/2
  • 年金受給額4.75万円 = 基本月額12.5万円 - 支給停止額7.75万円

加えて、後述する「4.標準報酬月額の上限引上げ」の改正によって、中小企業の社長の状況はさらに悪化することになります。現在、厚生年金保険料の標準報酬月額上限は65万円ですが、改正後はその上限が65万円から75万円へと段階的に引き上げられることが決まっているからです。

3.遺族厚生年金の見直し

表向きの改正理由は“男女差解消”ですが、実質的には今回の改正法で2028年4月から“遺族厚生年金の縮小”されることになります。とりわけ“子どものいない配偶者”への影響が大きくなります。

遺族厚生年金の変更点(子どもがいない場合)
現行制度改正後(2028年4月から)
  • 【女性】
    30歳未満で死別: → 5年間の有期給付
    30歳以上で死別 → :無期給付
  • 【男性】
    55歳未満で死別 → :給付なし
    55歳以上で死別 → 60歳から無期給付
  • 【男女共通】
    60歳未満で死別: → 原則5年間の有期給付※1 配慮が必要な場合は5年目以降も給付を継続
    ※2 有期給付の収入要件(年収850万円未満)を廃止・有期給付加算などにより年金額を増額
    60歳以上で死別: → 無期給付

現行制度では女性は死別年齢が30歳以上であれば遺族厚生年金を“無期給付”で受けられましたが、改正後は“原則5年の給付”に変更されます。一方、現行制度では男性は“55歳以上”でないと遺族厚生年金を受給できませんでしたが、改正後は60歳未満であれば“最低5年は受給できる”ようになります。

改正法で影響を受ける世帯・受けない世帯

今回の改正法で影響が大きいのは“子どものいない60歳未満の妻がいる世帯”です。もし夫が亡くなり妻が遺族厚生年金を受給する場合、これまでは30歳以上であれば“無期給付”を受けられました。しかし、2028年4月からは給付期間が“5年間”に短縮されてしまうからです。とりわけ専業主婦世帯はこれまで一生涯続く遺族厚生年金が5年間しか受給できなくなるため他の収入源が必要になるでしょう。

今回の法改正で影響のある世帯/影響のない世帯
影響のある・大きい世帯影響がない・限定的な世帯
  • 子のいない60歳未満の妻がいる世帯
  • 子のいない60歳未満の夫がいる世帯
  • 18歳未満の子がいる世帯
  • 60歳以上で既に遺族年金を受給する世帯

一方、子のいない60歳未満の夫がいる世帯は、制度改正をプラスに捉えられます。これまで最低55歳にならないと受けられなかった遺族厚生年金が“60歳未満なら5年は受け取れる”ようになるためです。もし妻が亡くなり仕事ができなくなっても、5年間は遺族厚生年金を受給できるわけです。

4.標準報酬月額の上限引上げ

厚生年金保険料は被保険者の報酬に保険料率(現行18.3%・労使折半)を乗じて計算されます。しかし、実際の報酬額に基づくのではなく、あらかじめ定められた“32等級”のうち、該当する等級に報酬を当てはめて保険料を計算します。それが「標準報酬月額」です。次のとおり、「標準報酬月額」は1等級(88,000円)から32等級(650,000円)に区分されています。

 協会けんぽ|都道府県毎の保険料額表

改正後は上限75万円(35等級)へ

令和7年現在の「標準報酬月額上限」は32等級(650,000円)に設定されており、それ以上の報酬を得ている場合でも保険料は上限額に基づいて計算されます。しかし、今回の改正法で「標準報酬月額上限」は次のように段階的に引き上げられます。ズバリ、保険料の“値上げ”です。

改正法による社長への影響

例えば、月額報酬が75万円以上の社長の場合です。今回の改正法で2029年9月以降の保険料(労使合計)は月額18,200円程度(年額218,400円程度)増加することになります。

改正法の影響はこれだけではありません。先述の「在職老齢年金」にも関係してきます。たしかに今回の改正法で支給停止基準額が“62万円”に引き上げられます。しかし、同時に「標準報酬月額上限」も引き上げられますので、結果的に高額報酬を受け取って社長にとっては「在職老齢年金」の支給停止基準額も引き上げられることになるわけです。

例えば、年金月額12.5万円・報酬月額75万円(総報酬月額相当額75万円)の社長がいたとします。すると、改正後の支給停止基準額が62万円になっても、「標準報酬月額上限」も同時に引き上げられるので、最終的(2029年9月以降)には、こうなってしまうのです…

  • 支給停止額12.75万円 =( 基本月額12.5万円+総報酬月額相当額75万円-62万円 )× 1/2
  • 年金受給額ゼロ(0円) = 基本月額12.5万円 < 支給停止額12.75万円

この記事のまとめ

以上が保険営業マンならインプットしておくべき「年金改革法案」の中身です。ここに書かれた内容以外にも今回の改正法では「将来の基礎年金の給付水準の底上げについて」などのトピックも盛り込まれております。詳しくは下記のリソースに詳しく書かれていますので、各自ご確認なさってください。

 年金制度改正法が成立しました(厚生労働省)
 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要