今回は保険営業マンなら知っておきたい税務知識の話です。今月決算を迎える。もう時間がない。でも節税したい。そういうシチュエーションで有効な節税対策です。方法は大きく5つあります。いずれも、支出を伴わず、それでいて見落としがちな節税対策です。
あなたの周りで「予想よりも利益が出てしまったが、今からできる節税対策はないか?」と困っている社長がいたら、ぜひ教えてあげてください。(もちろん、法人保険を提案した後で、です)
ここでご紹介する5つの方法とはいずれも「未払費用」を使った節税対策です。支出を伴わない節税でもっとも効果的なのは未払費用をもれなく計上することです。未払費用とは経費が当月末までに発生して支払いは翌月以降のものです。未払費用を厳密に計上すれば利益を圧縮し節税を図れます。
少額でも数があれば節税効果は大きくなりますし、支出を伴わない経費ですので、手元のキャッシュも目減りしないメリットがあります。加えて、この5つは「決算日後」にもできる節税対策です。ただし、法人税の規定では経費として認められるためには「債務確定」が条件となります。さらに、債務確定は次の3つの要件で判断されます。
- 期末までに支払義務が確定している
- 実際に期末までに発生している費用である
- 金額を合理的に算定できる
逆にいうと、以上の3要件を満たせば当期の経費に計上できるのです。ポイントは期末までの支払いは条件がないということ。すなわち、支払いが翌期でも当期の未払費用となります。
では具体的にはどのようなものが「未払費用」として計上できるのか?
以下は比較的大きな金額を計上できるのに、見落としがちな5つの未払費用です。「 」内の★は節税効果を示しています。最高は★3つ。数が多いほど節税効果が高いことを示しています。
多くの会社では給与の「締め日」と「支払日」が決まっています。例えば、「15日締めの30日払い」の場合は前月16日から当月15日までに働いた分の給与を計算し、30日に支払うことになります。よって、3月決算の会社でも3月16日~3月30日までの給料は「日割計算」して未払費用にできるのです。
- 2月16日~3月15日に働いた分の給与 → 3月30日支払い
- 3月16日~4月15日に働いた分の給与 → 4月30日支払い
3月決算の会社でも3月16日~3月30日までの給料は「日割計算」して未払費用にできるのです。
このケースでは毎月の給料支給額が300万円の会社なら150万円は経費に計上できるということです。(※ただし、役員給与については「日割り」という概念がありませんので、未払費用として計上できません)そう考えると、従業員数の多い会社では決してバカにならない金額になるはずです。
社会保険料も未払費用の対象です。健康保険・厚生年金の社会保険料は本人負担分を給与から天引きします。そうして翌月末に会社負担分と合わせて年金事務所に支払います。ポイントは社会保険料は「前払い」だということ。つまり、3月分の社会保険料は翌月4月末に支払います。このことから4月末に支払う社会保険料のうち、会社負担分(支払額の1/2)を未払費用に計上できるのです。
法人税法基本通達9-3-2(社会保険料の損金算入の時期)
9-3-2 法人が納付する次に掲げる保険料等の額のうち当該法人が負担すべき部分の金額は、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。(昭55年直法2-15「十三」、平15年課法2-22「九」、平16年課法2-14「十」により改正)
(1)健康保険法第155条《保険料》又は厚生年金保険法第81条《保険料》の規定により徴収される保険料
(2)厚生年金保険法第138条《掛金》の規定により徴収される掛金(同条第5項《設立事業所の減少に係る掛金の一括徴収》又は第6項《解散時の掛金の一括徴収》の規定により徴収される掛金を除く。)又は同法第140条《徴収金》の規定により徴収される徴収金
【注】同法第138条第5項又は第6項の規定により徴収される掛金については、納付義務の確定した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
もちろん、社会保険料だけでなく、労働保険料も未払費用に計上できます。社会保険料に比べると節税効果は少ないですが、チリも積もれば、です。
法人税法基本通達9-3-3(労働保険料の損金算入の時期等)
9-3-3 法人が、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第15条《概算保険料の納付》の規定によって納付する概算保険料の額 又は同法第19条《確定保険料》の規定によって納付し、又は充当若しくは還付を受ける確定保険料に係る過不足額の損金算入の時期等については、次による。(昭55年直法2-15「十三」により追加)
(1)概算保険料 概算保険料の額のうち、被保険者が負担すべき部分の金額は立替金等とし、その他の部分の金額は当該概算保険料に係る同法第15条第1項に規定する申告書を提出した日(同条第3項に規定する決定に係る金額については、その決定のあった日)又はこれを納付した日の属する事業年度の損金の額に算入する。
(2)確定保険料に係る不足額 概算保険料の額が確定保険料の額に満たない場合のその不足額のうち当該法人が負担すべき部分の金額は、同法第19条第1項に規定する申告書を提出した日(同条第4項に規定する決定に係る金額については、その決定のあった日)又はこれを納付した日の属する事業年度の損金の額に算入する。ただし、当該事業年度終了の日以前に終了した同法第2条第4項《定義》に規定する保険年度に係る確定保険料について生じた不足額のうち当該法人が負担すべき部分の金額については、当該申告書の提出前であっても、これを未払金に計上することができるものとする。
(3)確定保険料に係る超過額 概算保険料の額が確定保険料の額を超える場合のその超える部分の金額のうち当該法人が負担した概算保険料の額に係る部分の金額については、同法第19条第1項に規定する申告書を提出した日(同条第4項に規定する決定に係る金額については、その決定のあった日)の属する事業年度の益金の額に算入する。
電気代・水道代・ガス代・電話代なども未払費用の対象です。これらの経費も3月分の使用料が4月支払いになるからです。例えば、弊社の場合です。弊社では会社保有の収益不動産に自販機を計5台設置していることもあって、毎月バカにならない電気代になっていますし、電話代もけっこうな額です。これらだけでも毎期10万円以上の未払費用を計上できてしまいます。
これはどこの会社でもやっています。消耗品や事務用品を決算前にまとめ買いするわけです。無論、弊社もやっています。消耗品・事務用品などの未払費用について法人税法にはこうあります。
法人税基本通達2-2-15
事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これに準ずる棚卸資産(各業年度毎におおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限る)の取得に要した費用の額を継続してその取得をした日の属する事業年度の損金の額に算入している場合には、これを認める。
本通達には「支払った」という文言が入っていません。従って、期末に未払いでも損金経理は認められると解釈できます。例えば、法人クレジットカードを使って消耗品や事務用品を購入します。すると、カード払いの締め日の関係で購入日は当月でも支払いは2ヶ月遅れの5月になります。
それでも未払費用に計上できるわけです。そう考えると、消耗品や事務用品の未払費用計上は決算当月(3月)に支出を伴うことなく、今期の利益を圧縮することにつながります。(※ただし、必ずカード利用明細書で利用日を確認して計上する必要があります)
とはいえ、消耗品や事務用品などは多額で毎年度末の在庫計上の増減が大きいと、その点を税務当局に指摘されるリスクがあります。程度の問題です。ほどほどにしておいた方が良いでしょう。
この記事のまとめ
以上、5つの未払費用を細かく拾っていくと、どこの会社もそれなりの金額になるものです。その額が100万円で、実効税率が33.8%だとすれば、これだけで33.8万円以上の節税につながります。
にもかかわらず、これら5つを未払費用に計上していない会社がけっこうあります。いずれも支出を伴わない節税ですので、やらなきゃ損です。実行方法もいたって簡単。ここに挙げた5つの未払費用を顧問税理士に「全部、今期の未払費用として計上してくれ!」と依頼するだけです。
今月決算を迎える。もう時間がない。でも節税したい。そんな社長いたら、ぜひこの5つの未払費用について教えてあげてください。このようなお役立ち精神が後々ホームランにつながるはずです。