令和の年金制度改「悪」の背景
端的にいうと、年金財政が逼迫しているからです。今回、議論のテーブルに挙がっているのが「国民年金」です。そもそも国民年金の給付には国庫負担(税金)が1/2注ぎ込まれています。しかし、少子高齢化の影響と国民年金の未納率の高さから、それでも年金原資が不足している状況です。
2022年現在、国民年金保険料は16,590円(年額199,080円)、保険料を40年間納付した場合の満額受給額は月額64,816円(年額777,792円)です。しかしながら、厚労省の年金財政検証によると、現行制度のままでは2046年には支給額が3割弱下がると試算されています。仮に支給額が3割下がると、国民年金の満額受給額は「月額4万円台」になり、年額では「20万円以上」の受給額ダウンです。
そこで、厚労省としては受給額ダウンを何とか「月額5万円台」に留めたい意向のようです。つまり、近い将来には国民年金の満額受給額が下がるのは“既定路線”になっていて、今回の改正(案)では「月額5万円台」に留めるために次の2つの案を検討していると報道されています。
1.の案は日本経済新聞が報道した内容です。ご存知のとおり、厚生年金は2階建てです。1階部分に国民年金(基礎年金)があって、2階部分に厚生年金(報酬比例部分)という構造です。1.の改正案では厚生年金の報酬比例部分(2階部分)の支給額を減らし、そこで浮いた財源を国民年金(基礎年金)に回して穴埋めする仕組みを検討していると報道されています。記事では、
マクロ経済スライド(年金の給付水準を調整する制度)を老齢基礎年金は早期停止して年金額を維持する。一方で、帳尻を合わせるために厚生年金のマクロ経済スライド適用の終了を延ばす。
とされています。要は、こうすることで厚生年金の報酬比例部分(2階部分)は減るが、国民年金(基礎年金)は増えるので、トータルでは大半の世帯で年金受給額が増えることになる、というロジックのようです。(※「損」が出るのは世帯年収が1,790万円以上の場合に限られると厚労省は試算)
国民年金「5万円台」維持へ 厚労省、厚生年金で穴埋め(日本経済新聞)
1.の案の問題点
そもそも国民年金と厚生年金とでは「法律」も「財布」も違います。国民年金は「国民年金法」、厚生年金は「厚生年金法」でそれぞれ規定された制度です。また、国民年金はその半分を国庫負担(税金)で賄っており、厚生年金はその半分を事業主が負担しています。にもかかわらず、一方の損失を、もう一方で穴埋めする。こんな事態は到底、厚生年金被保険者の理解を得られないのではないでしょうか。そうでなくとも厚生年金被保険者には「在職老齢年金」という年金減額制度があるのです。
2.の案は共同通信が報道した内容です。現在、国民年金の保険料納付期間は「40年」です。2.の改正案では保険料納付期間を「45年」に延長することを検討していると報道されています。記事では、
自営業者や、60歳以降は働かない元会社員らは負担が増す。企業の雇用延長などで65歳まで働く人は現在も保険料を払っており負担は変わらない。
とされています。2022年現在、国民年金保険料は16,590円(年額199,080円)です。となると、保険料納付期間が5年延長されたら「約100万円」(年額199,080円×5年)の負担増になるわけです。これが現実のものとなれば、「自営業者」や「60歳以降は働かない元会社員」に大きな影響が出ることでしょう。
国民年金、納付45年へ延長検討 受給水準の低下食い止め(共同通信)
2.の案の問題点
問題は保険料負担が「100万円」増えても“年金受給額が増えるわけではない”ということです。先述のとおり、将来的な年金受給額の減少を緩和するためのものだからです。(1.の案にも同じことがいえます)すでに国民年金は過去10年をみても、マクロ経済スライドの導入で年金受給額は抑制(減額)され、その一方で保険料負担額は増加しています。さらに、2019年には「財源は社会保障費に充てる」として消費税を10%に増税したのは記憶に新しいところ。それでも財源不足である。そこで2.の案というわけです。
この記事のまとめ
以上、保険営業マンが知っておきたい!「令和の年金大改悪」のポイント解説です。政府(社会保障審議会年金部会)は5年に1度、年金制度の健全性を確かめる「財政検証」を実施しています。直近の検証は2024年に予定されており、本記事の改正案についても議論される予定とのこと。その際は国民年金の「70歳支給開始」や「第三号被保険者の廃止」も併せて議論のテーブルに乗るのではないでしょうか。
我が国の年金制度については、年金をもらう人は増え続け、その原資を賄う保険料負担者は減り続けています。このような状況で“現行の年金制度を維持できるわけがない”のは小学生でも分かる話でしょう。にもかかわらず、今回のような“その場凌ぎ”をいつまで続けるつもりなのか。甚だ疑問です。