今回は保険営業マンが知っておくべき「子ども・子育て支援金制度」と社会保険料の負担額の関係をテーマにします。ご存知のとおり、賛否両論がある中、政府は、2024年2月、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案を国会に提出しました。政府が公表した試算によると、再来年の2026年度から「子ども・子育て支援金制度」が始まり、その財源として次が徴収される予定とされています。
- 初年度:6,000億円
- 2027年度:8,000億円
- 2028年度以降:1兆円
では、上記の財源はどこから徴収されるのか?
財源は健康保険に上乗せで徴収
「子ども・子育て支援金制度」とは少子化対策の柱となる児童手当の所得制限撤廃や支給期間延長などの財源を確保するためのものです。2028年度までに実施する少子化対策の「加速化プラン」に必要だとされる年間3兆6000億円のうち、1兆円の財源を調達するための新たな仕組みです。
創設が初めて打ち出されたのは「こども未来戦略方針」(2023年6月)で、その後に財源を健康保険(公的医療保険制度)にする決定がなされました。社会全体で子育て支援の費用を負担することから、子育て世帯であるかどうかに関わらず、独身の人や子育てが終わった中高年層にも負担が発生します。
…と、ここまでは理解できるのですが、理解できないのは、政府が「実質負担ゼロ」と訳の分からない屁理屈を繰り返していることです。結局のところ、「子ども・子育て支援金制度」の財源は健康保険料に上乗せで徴収とされ、その負担額の試算が公表されているからです。その発表によると、2028年度の時点での徴収額は被用者保険(協会けんぽ等)の被保険者1人あたりで、次のように試算されています。
年収 | 2026年度 | 2027年度 | 2028年度 |
年収200万円 | 月200円 (年2,400円) | 月250円 (年3,000円) | 月350円 (年4,200円) |
年収400万円 | 月400円 (年4,800円) | 月550円 (年6,600円) | 月650円 (年7,800円) |
年収600万円 | 月600円 (年7,200円) | 月800円 (年9,600円) | 月1,000円 (年12,000円) |
年収800万円 | 月800円 (年9,600円) | 月1,050円 (年12,600円) | 月1,350円 (年16,200円) |
年収1,000万円 | 月1,000円 (年12,000円) | 月1,350円 (年16,200円) | 月1,650円 (年19,800円) |
実際は“労使折半”での徴収
しかし、先の「年収別の拠出額」は正確ではありません。老齢厚生年金の納付保険料と受給額の関係などもそうですが、この手の政府資料はいつも重要なポイントをあえて伝えていなからです。それは、財源の徴収は“労使折半”ということ。つまり、先の徴収額は“本人分”のみであり、実際の徴収額は“倍”になるということです。このことは下記の政府資料p5の注釈(注1)に小さい字で説明されています。
子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について(こども家庭庁)
よって、実際の労使合計の「年収別の拠出額」はこうなります。例えば、オーナー社長などは会社と個人のサイフが一体化していますので、2026年からこれだけの社会保険料が増加することになるわけです。
年収 | 2026年度 | 2027年度 | 2028年度 |
年収200万円 | 月400円 (年4,800円) | 月500円 (年6,000円) | 月700円 (年8,400円) |
年収400万円 | 月800円 (年9,600円) | 月1,100円 (年13,200円) | 月1,300円 (年15,600円) |
年収600万円 | 月1,200円 (年14,400円) | 月1,600円 (年19,200円) | 月2,000円 (年24,000円) |
年収800万円 | 月1,600円 (年19,200円) | 月2,100円 (年25,200円) | 月2,700円 (年32,400円) |
年収1,000万円 | 月2,000円 (年24,000円) | 月2,700円 (年32,400円) | 月3,300円 (年39,600円) |
この記事のまとめ
以上が「子ども・子育て支援金制度」と社会保険料の負担額の関係です。政府は「子ども・子育て支援金制度」の拠出金について、今後賃上げが進んだ場合、全体の報酬額が増えるため、年収別の拠出額が少なくなることを想定しているとしています。しかし、その一方で、負担額が将来上がる可能性もあると、何とも曖昧な見通しで「子ども・子育て支援金制度」をスタートしています。
いずれにしても、です。「子ども・子育て支援金制度」によって労使ともに2026年度から社会保険料の負担がまた上昇する。これは確定事項です。保険営業マンはこの事実を知っておきましょう。