政府は医療・介護保険料算定に株の配当などの金融所得を反映させる検討を本格化させています。その背景には医療・介護保険料算定基準の不公平感を解消し、社会保障制度の充実を図る狙いがあります。これが実現すると、自営業者と高齢者の中には保険料が上がったり、診療時などの自己負担割合が変わったりするケースが続出します。どういうことなのか。保険営業マンは理解しておきましょう。
金融所得について
ご存知のとおり、金融所得とは投資信託・株式・預金などの金融商品から得た所得をいいます。具体的には、株式の譲渡所得、配当所得、利子所得のことです。その課税方式には次の3種類あります。
- 申告分離課税
- 総合課税
- 申告不要
利子所得は「3.申告不要」で税率が一律合計20.315%(所得税15%+住民税5%=合計20%×復興特別所得税0.315%が加算されたもの)であり、所得発生時に口座から自動徴収されるため、自分で納税をする必要がありません。一方、株式の譲渡所得、配当所得などは3つの課税方式から選択することになります。
このとき、株式の譲渡所得、配当所得などで「3.申告不要」の課税方式を選択すると、源泉徴収のみで課税関係が完了し確定申告が不要となります。と同時に、金融所得は医療・介護保険料算定基準からも外れることになり、この点が“保険料の算定に不公平性”があると問題視されているわけです。
医療・介護保険料の算定について
医療・介護保険料の算定方法は公的保険の種類によって異なります。給与所得のサラリーマンなどは「被用者保険」(協会けんぽ・健保組合・共済等)に、事業所得などの自営業者などは「市町村国保」や「国保組合」に、75歳以上の後期高齢者は「後期高齢者医療制度」に、それぞれ加入します。
- 給与所得のサラリーマンなど … 「被用者保険」(協会けんぽ・健保組合・共済等)
- 事業所得の自営業者など … 「市町村国保」「国保組合」
- 75歳以上の後期高齢者 … 「後期高齢者医療制度」
自営業者と高齢者を狙い撃ち!
このうち今回、やり玉に挙がっている対象は「B」の事業所得の自営業者と「C」の75歳以上の後期高齢者です。というのも、「B」と「C」では金融所得の課税方式に「申告分離課税」または「総合課税」を選択すると、金融所得も医療・介護保険料の算定に含まれますが、「申告不要」を選択すると医療・介護保険料の算定に含まれずに済むケースがあるからです。
このように同じ金融所得であるにも関わらず、現行制度では確定申告の有無で医療・介護保険料の金額が変わってしまう現象が発生します。そこで、確定申告の有無に関わらず金融所得を医療・介護保険料の算定に含めるようにすることで不公平感を解消し、社会保障制度の充実を図ろうとしているわけです。ただし、これは建前です。実際は社会保険の財源が足りない。これに尽きるでしょう。
この記事のまとめ
今回の議論は2028年度までに可否の検討を進めるそうです。ちなみに、「NISA」(少額投資非課税制度)については医療・介護保険料の算定に含めないと厚労省がコメントしています。
いずれにしても、課税方式に関わらず、医療・介護保険料に金融所得を反映させるとなれば、自営業者と高齢者の中には保険料が上がったり、診療時などの自己負担割合が変わったりするケースが続出します。これもまた「ステルス増税」(いつの間にか負担が増えている政策)のひとつといえるでしょう。