個人事業主を見込客にしたい保険営業のお役立ち知識として、「個人事業主が実行できる節税対策11選」をご紹介します。個人事業主の所得税額は「必要経費」と「所得控除」が大きいほど税額が少なくなる仕組みです。つまり、個人事業主の節税ポイントは「必要経費」と「所得控除」を「いかにして積み増すか?」にかかってきます。このポイントを踏まえて、節税対策を行うことによって個人事業主の税負担を軽減することができます。保険営業マンは覚えておきましょう。以下、その具体的な11の方法です。
方法#1. 青色申告で確定申告する
現在、「白色申告」で確定申告を行っている個人事業主は申告方法を「青色申告」に切り替えることで節税につながります。「青色申告」では最大65万円の特別控除があるからです。また、専従者給与(家族への給料)の点でも「青色申告」では給与全額を経費にすることができます。さらに、「青色申告」では3年間の赤字繰り越しができるなど、節税面でのメリットが多々あります。
区分 | 白色申告 | 青色申告 |
届出 | 税務署へ届出なし | 税務署へ届出あり |
記帳義務 | 単式簿記 | 単式簿記 | 複式簿記 |
特別控除 | なし | 10万円 | 65万円 |
決算書 | 「収支内訳書」 | 「貸借対照表」「損益計算書」 一部未記入可 | すべて記入要 |
専従者 | 配偶者86万円 / それ以外50万円 | 家族給与を全額経費算入可 |
赤字処理 | なし | 赤字を翌年以降3年間繰り越し可 |
減価償却 | 特例なし | 特例あり(30万円未満) |
方法#2. 必用経費と所得控除を見直す
下記の計算式のとおり、個人事業主の所得税(と住民税)は課税所得金額によって変わってきます。すなわち、「必要経費」と「所得控除」が増えれば課税所得金額が減少し、それだけ納税額が少なくなるわけです。(なお、「税額控除」があればさらに納税額が少なくなり、より高い節税効果を発揮します)
- 課税所得金額の計算式 = 売上 - 必要経費 - 所得控除
- 所得税額の計算式 = 課税所得金額 × 税率
- 申告納税額の計算式 = 所得税額 - 税額控除
必要経費と所得控除を見直す手順
そこでまずは「必要経費」を漏れなく計上することで節税対策を図ります。例えば、個人事業主なら以下のような支出はすべて「必要経費」として計上できます。
個人事業主が使える!必要経費(勘定科目)にできるもの(PDF)
なお、個人事業主の「必要経費」で落とせないものとしては「所得税・住民税」「社会保険料(国民健康保険料・国民年金保険料)」「家事関連費」「住居費」「自分自身への報酬」「自分と親族専従者への退職金」「生命保険料」「損害保険料(自宅)」などがあります。
次に、「必要経費」同様、「所得控除」も漏れなく計上することで節税対策を図っていきます。以下は個人事業主が使える16種類の所得控除と控除額一覧です。
個人事業主が使える!16種類の所得控除と控除額一覧(PDF)
最後に、「税額控除」です。先の「所得控除」は課税所得金額から控除されます。一方、「税額控除」は税額から直接控除されますので、節税という点ではより高い効果を生みます。個人事業主が使えそうな、おもな「税額控除」としては次のようなものがあります。
- 配当控除
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
- 住宅耐震改修特別控除、住宅特定改修特別税額控除、認定住宅新築等特別税額控除
- 外国税額控除
- 政党等寄附金特別控除、認定NPO/公益社団法人等寄附金特別控除
…などなど、上記以外の「税額控除」については国税庁HPで確認ください。「税額控除」のうち配当控除や(特定増改築等)住宅借入金等特別控除などは生活に身近なため該当する個人事業主も多いことでしょう。「所得控除」と併せて、こうした「税額控除」も漏れなく計上することで、節税を図っていきます。
※「税額控除」の適用には確定申告で必要事項を記載し控除額の計算をする必要があります。また、「税額控除」の種類によって異なりますが、数種類の必要書類を用意し確定申告書に添付する必要があります。
方法#3. 自宅兼事務所なら経費を按分する
個人事業主の中には“自宅兼事務所”としているケースがあります。その場合は「家賃」「水道光熱費」などを事業に供している面積・使用時間などで按分して「必要経費」にできます。例えば、個人事業主名義で60㎡の賃貸マンションに家賃(月)15万円で居住していて、そのうち20㎡をオフィス(仕事場)にしているなら、家賃を按分して(月)5万円分を「必要経費」(地代家賃)として計上できるわけです。
また、個人事業主名義の持ち家の場合でも返済中のローンの支払利息を按分して「必要経費」にすることができます。(ローン元本は経費ではない)
※ ただし、個人事業主名義の持ち家で住宅ローン控除の適用を受けている場合は事業用割合が床面積の1/2を超えると控除が適用されなくなります。
方法#4. 少額減価償却資産の特例を利用する
通常、個人事業主がパソコンやプリンターなど単価が10万円以上するものを購入した際は「固定資産」とみなされて、「減価償却」という方法で数年に分割して「必要経費」にしていくことになります。例えば、24万円のパソコンを購入すると、次のように経費計上することになります。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 |
6万円 | 6万円 | 6万円 | 6万円 |
しかし、個人事業主が「青色申告」で確定申告をすれば“30万円未満”の固定資産についてはその事業年度の「必要経費」として一括計上できる「少額減価償却資産の特例」の優遇措置を受けることができます。
方法#5. 短期前払費用の特例を利用する
一定要件を満たせば、個人事業主が事業年度をまたいだ費用を前払いしても年度内の「必要経費」として計上することができます。これを「短期前払い費用の特例」といいます。ただし、前払いした費用が当期の「必要経費」として認められるには以下すべての要件を満たす条件があります。
- 年払いに関する記載のある契約書がある
- 継続的な役務提供であること(単発の役務提供は「前渡金」となる)
- 実際に料金を支払っている
- 支払った日から1年以内に役務提供を受ける
- 支払方法や経理方法を継続する(毎年同じ計上方法にする必要がある)
- 売上に対応する費用は認められない
例えば、インターネットのレンタルサーバー料金です。個人事業主が1年分のまとまった料金を一括で支払った場合、通常は確定申告する事業年度の期間分のみの「必要経費」になり、そこから先の期間の料金は「前払費用」ということになります。しかし、上記の要件をすべて満たせば、その「前払費用」も確定申告する事業年度の「必要経費」に計上できるわけです。
方法#6. 青色専従者給与で所得分散する
個人事業主の家族従業員(配偶者・子など)は「専従者」と呼ばれ、基本的にその給与は「必要経費」にできません。しかし、例外があります。それが、青色申告で事前に「青色事業専従者給与」の届出を行っている場合です。以下の要件を満たせば、個人事業主が家族従業員(配偶者・子など)に支払った給与を全額「必要経費」にでき、場合によっては毎年数十万円の節税効果につながります。
※ 白色申告では専従者への給与を経費にはできません。白色申告では「事業専従者控除」となり、配偶者86万円・それ以外50万円の定額控除になります。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者、またはその他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6ヵ月を超える期間(一定の場合には事業に従事できる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業にもっぱら従事していること
青色専従者給与の届出ポイント
節税という観点からの「青色事業専従者給与」の届出ポイントは家族従業員(配偶者・子など)への給与額は多めに記載しておくことです。その額以内で支払う分には問題とならないからです。さらに、「青色事業専従者給与」の届出を行えば、給与だけでなく、賞与も「必要経費」として支払えるのです。
例えば、7月に3ヶ月分以内、12月に3ヶ月分以内として、支給額の幅を持たせて支払うこともできます。ここでのポイントは「以内」とすることで利益が出れば賞与を多く、利益が出なければ賞与を支給しなくても構わないとなることです。こうした賞与の支払い方法は個人事業主ならではのメリットといえます。
青色専従者給与の注意点
配偶者・子を青色事業専従者にすると配偶者(及び扶養)控除38万円の適用を受けられなくなります。控除がなくなる分、個人事業主本人が支払う所得税や住民税は増加します。そこで、節税効果を考えるなら青色事業専従者への給与額は年間38万円以上にする必要があります。また、青色事業専従者への給与が月額88,000円以上になると個人事業主に源泉徴収義務が発生します。この点も注意が必要でしょう。
方法#7. 小規模企業共済に加入する
「小規模企業共済」は個人事業主などを対象とした退職金制度です。掛金月額は1,000円から70,000円までの範囲内でその全額を「小規模企業共済等掛金控除」として「所得控除」できます。最高で月70,000円なら年間では70,000円×12カ月=84万円もの控除になるわけです。また、掛金を前払いした場合には、その事業年度で最高168万円(当年+次年度)の「所得控除」を受けることができます。
例えば、課税所得金額600万円の個人事業主が掛金5万円で加入すると、節税額は年間182,500円になります。掛金の実質負担額は417,500円です。つまり、417,500円の掛金で600,000円を積立てたことになります。ただし、任意に途中解約したときの「解約手当金」は20年以上経過しないと掛金払込総額を下回ります。その点を考慮のうえ、無理のない範囲で加入した方がよいでしょう。
方法#8. 個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入する
「個人型確定拠出年金」(iDeCo)の掛金も「小規模企業共済等掛金控除」に含まれます。「個人型確定拠出年金」(iDeCo)は毎月の掛金があらかじめ確定する一方、将来の年金受取額が運用次第で変わります。個人事業主の掛金上限は月額68,000円、年間816,000円です。税金面で次の3つのメリットがあります。
- 掛金は全額所得控除の対象になる
- 運用中の運用益は非課税になる
- 受取年金は退職所得扱いなる
その反面、「個人型確定拠出年金」には「最低60歳までキャッシュが固定化してしまう」「運用リスクがある」「管理コストがかかる」などのデメリットもあります。
条件 | 小規模企業共済 | 個人型確定拠出年金 |
掛金 | 月額70,000円 | 月額68,000円 |
利率 | 予定利率1.0% | 運用次第 |
投資リスク | なし | あり |
運用コスト | なし | あり |
受取方法 | 一時金 or 10年・15年の有期年金 | 原則5年~20年の有期年金 |
受取開始 | 定めなし(任意解約可) | 60歳~70歳までの間 |
受取時課税 | 退職所得控除 or 公的年金等控除 | 退職所得控除 or 公的年金等控除 |
貸付制度 | あり | なし |
受取開始や貸付制度という点で自由度は「小規模企業共済」に軍配が上がります。よって、「小規模企業共済」に満額加入して、それでもさらに余裕がある場合は「個人型・確定拠出年金」に加入するのが良いでしょう。両方とも満額加入すれば掛金年間合計額1,656,000円もの「所得控除」を利用できます。
方法#9. 経営セーフティ共済に加入する
「経営セーフティ共済」は取引先が倒産した際に契約者(中小企業・個人事業主)が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れでき、その掛金は月額5,000円~20万円の範囲で全額「必要経費」として計上できます。しかも、掛金の払込期間が40ヶ月以上であれば、既払掛金が100%戻って来るのも大きなメリットです。
なお、「経営セーフティ共済」も「小規模企業共済」同様、前払いの制度があります。前払いした場合には、向こう1年分の掛け金も「必要経費」として計上できます。これにより個人事業主は最大480万円も「必要経費」に計上できるので、ものすごい節税効果を発揮します。
ただし、途中解約の解約金は「収入」として申告が必要です。そのため何の対策もせずに解約すると、その事業年度の税負担が大きく増加しますので、解約のタイミングには注意が必要になってきます。
方法#10. ふるさと納税を活用する
税制上は「ふるさと納税」は納税ではなく「寄附」になります。つまり、個人事業主が「ふるさと納税」をすることで「寄附金控除」を受けた分だけ税金が安くなるという仕組みです。通常、「寄附」とは見返りのないものですが、「ふるさと納税」は違います。寄附をした地方自治体から特産品や特典などをもらえます。寄附なのに見返りがある。それが「ふるさと納税」です。
例えば、「ふるさと納税」で3つの地方自治体に20,000円ずつ計60,000円寄附したとします。すると、3つの地方自治体から特産品や特典が送られてきます。その特産品や特典が10,000円相当だとしましょう。
このとき60,000円寄付して10,000円相当の特産品と特典だったら「損しているのでは?」と思うかもしれません。しかし、確定申告後に58,000円の税金が戻って来るのです。つまり、個人事業主は2,000円の自己負担で10,000円相当の特産品と特典を手にできるのが「ふるさと納税」のメリットです。
ふるさと納税の流れ
個人事業主が「寄付金控除」を申告した場合、所得税・住民税から寄付額に応じて税金が控除されます。ただし、控除額は寄付額全額ではありません。控除額は、
- ( ① 寄附した金額 or ② 総所得金額×40% )- 2,000円
という計算式で決まります。2,000円は寄付金にかかる一律負担額です。控除対象となる「ふるさと納税額」は総所得金額等の40%が上限となります。よって、総所得金額等の40%を超える額を寄付すると、節税効果が薄れてしまいますので注意が必要です。「ふるさと納税」の流れはこうです。
- 好きな地方自治体に寄付する
- 地方自治体から特産品等と寄附金の証明書が送られてくる
- 証明書を添付して確定申告を行う
- 所得税(当年度分)の控除(還付)を受ける
- 住民税(翌年度分)の控除(減額)を受ける
方法#11. 法人化を検討する
国は「個人課税」を強化する一方で、「法人課税」を軽減しています。現在、個人の最高税率(所得+住民)は55%ですが、法人の最高税率(実効税率)は33.583%です。すなわち、【個人】と【法人】では20%以上もの税率の「差」になるわけです。よって、「節税」という観点からいうと、個人事業主は事業の課税所得がある程度の規模になったら、法人化を検討するタイミングといえます。下記の【個人】と【法人】の「税率」だけを見れば、そのラインは課税所得330万円超とも考えられます。
課税所得 | 税率 |
195万円以下 | 15% |
195万円超~330万円以下 | 20% |
330万円超~695万円以下 | 30% |
695万円超~900万円以下 | 33% |
900万円超~1,800万円以下 | 43% |
1,800万円超~4,000万円以下 | 50% |
4,000万円超 | 55% |
課税所得 | 税率 |
400万円以下 | 21.366% |
400万円超~800万円以下 | 23.173% |
800万円超 | 33.583% |
消費税の節税メリット
加えて、現在、個人事業主が「消費税課税事業者」なら法人化することで消費税が2年間免除されます。基本的に新設法人では消費税が2年間(1期目・2期目)免除されるからです。従って、個人事業主が「消費税課税事業者」なら法人化することで消費税について大きな節税メリットを享受できるでしょう。
経費面での節税メリット
経費面でも個人事業より法人の方が認められる範囲が広くなります。例えば、自分自身への「給与」「賞与」「退職金」がそうです。個人事業主には「給与」「賞与」「退職金」という概念がありません。そのため自分自身に入る収入を経費に計上できませんが、法人化してオーナー社長になると「給与所得者」となり、自分自身に支払った「給与」「賞与」「退職金」も法人の経費として計上できるわけです。
生命保険もそうです。個人事業主には生命保険料控除が最大12万円あるだけです。一方、法人が契約者となる生命保険では種類や契約内容によって全額経費として計上もできるわけです。
手取りを増やせるメリット
さらに、「事業で稼いだお金を残す」という点でも個人事業主よりも法人の方が有利です。我が国には個人事業主では使えなくても、法人なら使える“優遇制度”がいくつもあるからです。例えば、個人事業主では使えなくとも、法人化してオーナー社長になれば自分自身に、
- 「退職金」を支給して手取りを大きく増やせる
- 「旅費手当」を支給して手取りを大きく増やせる
- 「借り上げ社宅制度」を活用して手取りを大きく増やせる
…などの恩典を使えるわけです。それぞれのメリットについては下記ページにて詳細を解説しておりますので、併せてご確認ください。いずれにしても、法人ならではの、こうした優遇制度を使えば、個人事業主は事業で稼いだお金を今よりも有利に残せるようになるのです。
法人保険営業お役立ち資料#02|退職所得税額計算ソフト
法人保険営業お役立ち資料#03|借上社宅で社長の手取りを最大化する方法
法人保険営業お役立ち資料#05|旅費規程で社長の手取りを最大化する方法
この記事のまとめ
以上が個人事業主のための節税対策11選です。これらは保険営業で個人事業主を見込客にするために最低限知っておきたい基礎知識です。個人事業主に保険を売るなら、それぞれの節税方法のポイントは抑えておきましょう。また、個人事業主にとって節税同様、「いかにして国民健康保険料を削減するか?」も重要なテーマです。併せて、以下の記事参考にされてください。