保険営業で個人事業主を見込客にするためには知っておくべき知識があります。個人事業主に課税される税金とその計算方法もそのうちの1つです。個人事業主が納める税金はおもに4種類あります。国税として「所得税」「消費税」、地方税として「住民税」「個人事業税」です。個人事業主は1月1日~12月31日迄の収入と支出の結果を、翌年2月16日~3月15日に確定申告し、1年間の「所得税」「消費税」を税務署に申告・納税します。その確定申告をもとに「住民税」「個人事業税」の金額が決まります。
個人事業主が納める所得税
個人事業主の所得税は単純に「売上-経費」で計算されるわけではありません。「基礎控除48万円」「社会保険料控除」「生命保険料控除」「医療費控除」「青色申告控除」などの「所得控除」を差し引いた課税所得金額に「所得税速算表」の税率を乗じることで計算されます。つまり、こういう計算式です。
- 課税所得金額の計算式 = 売上 - 必用経費 - 所得控除
- 所得税額の計算式 = 課税所得金額 × 税率
ただし、個人事業主に配当控除や(特定増改築等)住宅借入金等特別控除などの「税額控除」がある場合は次のように上記で算出した所得税額から税額控除額を引いた金額を納付します。
- 申告納税額の計算式 = 所得税額 - 税額控除
「税額控除」とは所得税額から一定の金額を控除するものです。税額から直接差し引く分、所得控除に比べて節税効果が大きいことが特徴です。おもな税額控除としては、次のようなものがあります。
- 配当控除
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
- 住宅耐震改修特別控除、住宅特定改修特別税額控除、認定住宅新築等特別税額控除
- 外国税額控除
- 政党等寄附金特別控除、認定NPO / 公益社団法人等寄附金特別控除
所得税の仕組み
ここまでを図にすると、こうなります。以下で分かるとおり、個人事業主の所得税額は「必要経費」と「所得控除」が大きいほど税額が少なくなる仕組みです。ということは、個人事業主の節税ポイントは「必要経費」と「所得控除」を“いかにして積み増すか?”にかかってくると分かるのではないでしょうか。
所得税の計算方法
例えば、個人事業主が年間売上1,000万円、経費300万円、所得控除220.9万円(内訳:基礎控除48万円+国民健康保険料88万円+国民年金保険料19.9万円+青色申告特別控除65万円)だった場合は、課税所得金額は479.1万円になり、「所得税速算表」では税率20%、課税控除額は427,500円になります。
- 課税所得金額479.1万円 =(売上1,000万円 - 経費300万円 - 所得控除220.9万円)
- 所得税額530,700円 = 課税所得金額479.1万円 × 税率20% - 課税控除額427,500円
その結果、上記計算式のとおり、所得税額は530,700円になります。そして、ここで確定した所得税額を個人事業主は確定申告して毎年3月15日までに税務署へ納付するわけです。
個人事業主が納める消費税
消費税は課税事業者の要件を満たす個人事業主だけに納税の義務が発生します。下記のいずれか1つに該当した場合に消費税の課税事業者になります。(逆に、消費税は納税だけでなく、還付されるケースもありますが、その場合は課税事業者でないと還付は受けられません)
- 2年前の課税売上高が1,000万円を超えた場合に課税事業者になる
- 2年前の課税売上高が1,000万円以下でも個人事業主の場合1年前の1月1日から6月30日までの期間における課税売上高(又は給与等支払額)が1,000万円を超えた場合はその年度(当課税期間)から課税事業者になる
- 「消費税課税事業者選択届出書」を提出すると課税事業者になる
原則課税方式と簡易課税方式
消費税の納税方法には2種類あります。ひとつは「預かり消費税」から「支払い消費税」を差し引いて計算する「原則課税方式」、もうひとつは「支払い消費税」を実際の金額ではなくて、業種別の「みなし仕入率」で計算する「簡易課税方式」になります。
個人事業主は「簡易課税方式」が圧倒的多数でしょう。多額の設備投資等がなければ、通常は「簡易課税方式」の方が納付税額は少なくて済むからです。以下は「簡易課税方式」を選択するための条件です。
- 消費税の課税売上高が5,000万円以下である
- 税務署に選択届出書の提出が必要である
- 選択した場合は最低2期の適用が必要である
ご覧のとおり、「みなし仕入率」が高いほど、差し引ける消費税が多くなり、納税額が少なくなります。よって、第1種事業の納税額が一番少なくなります。なお、消費税は所得税と同じ国税となりますので、納付の必要がある場合は確定申告をして毎年3月31日までに税務署へ納付します。(地方消費税分含む)
事業区分 | みなし仕入率 | 該当業種 |
第一種 | 90% | ・卸売業 (対事業者) |
第二種 | 80% | ・小売業 (対消費者) |
第三種 | 70% | ・農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業、建設業、製造業・電気・ガス・熱供給・水道業、印刷業 ・加工賃等を対価とする役務の提供は除く |
第四種 | 60% | ・他の区分以外の事業すべて(飲食店、スナックなど) ・加工賃等を対価とする役務の提供も含む |
第五種 | 50% | ・金融業、保険業 、情報通信業、運輸業、物品賃貸業・学術研究、教育、学習支援業 ・専門・技術サービス業、宿泊業、生活関連サービス業、娯楽業、医療、福祉、複合サービス事業(士業、コンサルティング業、美容室、イベント運営、デザイン業、ソフトウェア制作、人材派遣、修理業などはココ) ・飲食店業は除く |
第六種 | 40% | ・不動産業(不動産仲介、不動産賃貸、不動産管理業) |
個人事業主が納める住民税
住民税は市県民税などとも呼ばれます。都道府県民税と市区町村民税の合計額を各市区町村に納付します。といっても、課税所得の確定申告を基に行政が税金を計算し、納税額を通知してくれますので、自分で申告する必要はありません。なお、「所得税」と「住民税」(所得割)とでは「所得控除」の金額が異なりますので、保険営業マンはその点を以下にて確認しておきましょう。
個人事業主が使える!16種類の所得控除と控除額一覧(PDF)
住民税の仕組み
ならば、どうやって住民税を計算するのか。「住民税」には2つの“割”があります。ひとつは「均等割」で収入に関係なく一律課税されるものです。市町村民税は各自治体によって異なります。もうひとつは「所得割」で所得金額に対して一律10%課税されます。(市区町村民6%・都道府県民4%の合計10%)
- 市町村民税 … 2,000~3,000円程度
- 都道府県民税 … 1,000円程度
住民税の計算方法
例えば、個人事業主が年間売上1,000万円、経費300万円、所得控除215.9万円(内訳:基礎控除43万円、国民健康保険料88万円、国民年金保険料19.9万円、青色申告特別控除65万円)だった場合は、均等割は市町村民税と都道府県民税で4,000円になり、所得割は課税所得金額481.1万円の10%で484,100円になります。
- 市町村民税3,000円 + 都道府県民税1,000円 = 均等割の住民税額4,000円 … ①
- (売上1,000万円-経費300万円-所得控除215.9万円)= 課税所得金額484.1万円
- 課税所得金額484.1万円 × 住民税率10% = 所得割の住民税額484,100円 … ②
- 住民税額(均等割+所得割)488,100円= ① + ②
その結果、下記の計算式のとおり、住民税額は488,100円になります。なお、住民税は毎年6月頃に自治体(市町村)から納税通知書が届きますので、個人事業主は役所、郵便局、銀行等で年4回(6月・8月・10月・1月)に分けて納付することになります。(普通徴収)
個人事業主が納める個人事業税
個人事業税も住民税と同じで地方税になります。個人事業税は1年間の事業所得及び不動産所得が290万円以上ある個人事業主に納付義務が発生します。(逆に、個人事業税には事業主控除が一律年間290万円ありますので、事業所得及び不動産所得が290万円以下なら納付義務はありません)
個人事業税の仕組み
ならば、どうやって個人事業税を計算するのか。個人事業税の税額は「青色申告特別控除」を控除する前の課税所得金額から事業主控除290万円を差し引いたものに税率を掛けて算出します。(「青色申告特別控除」は個人事業税には適用されませんので、計算の際はその分をプラスします)
個人事業税の税率は3%~5%です。ただし、ほとんどの業種は税率5%になります。税率が3%の業種はあんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復・その他の医業に類する事業等で、税率が4%の業種は畜産業・水産業等ですので、その他業種はすべて税率5%になるからです。従って、個人事業主が納める個人事業税の税額計算方法はこうなります。
- 個人事業税の計算式 = 課税所得金額 + 青色申告特別控除額 - 事業主控除額 × 税率
個人事業税の計算方法
例えば、個人事業主の保険代理店で考えてみましょう。課税所得金額が457万円、青色申告特別控除が65万円だったら、個人事業税の税額は116,000円になります。
- 個人事業税116,000円 = 457万円 + 65万円 - 290万円 × 5%
なお、個人事業税は確定申告を出すと、毎年8月に都道府県税事務所から納税通知書が送られてきますので、第一期分(8月)と第二期分(11月分)に分けて納付します。
青色申告と白色申告の違い
個人事業主の確定申告方法には「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。では、「青色申告」と「白色申告」違いはどこにあるのか。簡単にいうと、次のような違いがあります。
- 会計帳簿について、白色申告はより簡易に、青色申告はより厳密性が求められる
- 税金計算において、青色申告には特典があり、白色申告にはない
青色申告とは
「青色申告」は原則として複式簿記方式により毎日の取引を記帳し、それに基づいて所得を申告する制度です。税務署に申請書類を提出し、承認を受けることが条件となります。「青色申告」は「白色申告」に比べて確定申告の手続きが面倒というデメリットがある反面、次のようなメリットがあります。
- 最大65万円の青色申告特別控除が受けられる
- 赤字を3年間繰り越しできる
- 家族への給料(専従者給与)を経費にできる
- 30万円未満の固定資産を全額経費にできる
- 自宅家賃や電気代などを経費にできる
なお、個人事業主は「青色申告」を選択することで国民健康保険料の削減にもつながります。「青色申告特別控除」で個人事業主の所得から最高65万円までの控除を差し引くことができるからです。
※ 令和2年分から65 万円の青色申告の特別控除を受けるためにはe-Tax による申告(電子申告)または電子帳簿保存を行うことが要件として追加されています。
保険営業に必要な知識~個人事業主の国民健康保険料を削減する6つの方法
白色申告とは
「白色申告」は「青色申告」を選択してない個人事業主の申告制度です。記帳は単式簿記で行います。所得税の税額計算のベースとなる「課税所得」は「(収入-必要経費+その他の所得)-各種所得控除」というシンプルな計算式で求められます。「青色申告」は「白色申告」に比べて確定申告の手続きが簡単というメリットがある反面、「青色申告」にある税制上の特典を受けられないデメリットがあります。
個人事業主の納税スケジュール
先述のとおり、個人事業主が納める税金は「所得税」「消費税」「住民税」「個人事業税」です。これらは同時に納付するのではなく、税金の種類によって納付スケジュール(納付期限)が異なります。
所得税 | 住民税 |
毎年3月15日迄 | 毎年6月・8月・10月・11月 |
消費税 | 個人事業税 |
毎年3月31日迄 | 毎年8月・11月 |
予定納税と中間納付
前年の所得税や消費税の納税額が一定金額を超える個人事業主は当年度の税金を先に納税する義務が生じます。所得税は「予定納税」と言われ、前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合、予定納税基準額の1/3の金額を第1期分として7月1日~7月31日迄に、第2期分として11月1日~11月30日迄に納めることになっています。
消費税は「中間納付」と言われ、前年度の確定消費税額(地方消費税額は含まず)が48万円を超える個人事業主が対象となります。納税額は前年度の納税額を基準として算定され、中間納付税額によって支払回数が異なります。支払回数には1回、3回、11回の3パターンあり、1回当たりの負担を軽減するために、納税額が大きいほど回数が多くなり、分割して支払える仕組みとなっています。前年度の確定消費税額が48万円を超え400万円以下の場合で年1回とされ、前年度の納税額の1/2を8月31日迄に支払います。
源泉所得税の納付
個人事業主が源泉徴収義務者(従業員を雇用など)で、納期の特例の承認を受けている場合は1~6月迄の源泉所得税を7月10日までに、7~12月迄の源泉所得税を1月20日迄に納税する必要があります。
この記事のまとめ
以上が個人事業主に課税される4種類の税金と計算方法です。これらは保険営業で個人事業主を見込客にするために最低限知っておきたい基礎知識です。個人事業主に保険を売るなら、それぞれの税金の計算方法、控除額、納付期限といったポイントは抑えておきましょう。また、個人事業主にとっては「いかにして納める税金を最小化するのか?」も重要なテーマです。併せて、以下の記事参考にされてください。