保険営業で社長に保険を売るなら知っておくべき知識があります。現行では老齢年金は65歳から受給することができます。しかし、中小企業の社長は現役でいる限り、年金受給年齢になっても、“本来もらえるはずの年金をもらえない”事態が発生します。それが「在職老齢年金」です。社長に保険を売るなら「在職老齢年金」の理解は必須です。保険営業マンは本記事で解説する内容を必ずインプットしておきましょう。
在職老齢年金の仕組み
「在職老齢年金」は収入が多いと、本来受け取れる年金が「減額」あるいは「支給停止」されてしまうのが特徴です。そのとき「減額」または「支給停止」された年金は“二度と戻って来ない年金”になります。保険料を払うだけ払って、いざ年金を受け取ろうとしても、収入があるから受け取れない。これが「在職老齢年金」という制度です。ついでにいうと、世界中を探しても、年金受給年齢になっても年金を満額受給できないのは「日本」だけです。ではなぜこんな納得のいかない制度が存在するのか。
二度と戻って来ない年金の行方!?
その成り立ちはともかく理由はズバリ、「年金の財源」がないからです。「在職老齢年金制度の見直し」(厚生労働省資料)によると、「在職老齢年金」によって支給停止になっているのは60~64歳で対象者は約67万人・支給停止額は約4,800億円、65歳以上で対象者は約41万人・支給停止額は4,100億円と報告されています。重要なのは、この支給停止額は「年金の財源」として“没収”されているということです。
そのため「在職老齢年金」を廃止すれば、支給停止額8,900億円もの財源が失われることになるわけです。逆にいうと、我が国の年金制度はこのようなインチキの上に成り立っているともいます。
在職老齢年金の注意点
なお、「在職老齢年金」とは「厚生年金」の制度をいいます。つまり、「在職老齢年金」で減額あるいは支給停止になるのは「老齢厚生年金」だけ、ということです。「老齢基礎年金」(国民年金)は受給年齢になれば、社長に収入があってももらえます。保険営業マンはこの点を混同しないようにしましょう。
老齢厚生年金の年収別受給額(目安)
とりわけ、役員報酬が高額な社長は年金が1円も受給できない「支給停止」の状態になっているケースが多く見られます。そのことで社長はどれだけの額の年金をもらい損ねているのか。以下は平成15年4月以後に厚生年金に加入した人の平均標準報酬額別・老齢厚生年金の受給額(目安)になります。
平均標準報酬額 | ||||
加入期間 | 月30万円 | 月45万円 | 月60万円 | 月75万円 |
10年 | 年20万円 | 年30万円 | 年39万円 | 年49万円 |
20年 | 年39万円 | 年59万円 | 年79万円 | 年99万円 |
30年 | 年59万円 | 年89万円 | 年118万円 | 年148万円 |
40年 | 年79万円 | 年118万円 | 年158万円 | 年197万円 |
加給年金の支給基準
社長の老齢厚生年金に「加給年金」が加算されるケースがあります。「加給年金」とは厚生年金版の「家族手当」のようなものですが、厚生年金の被保険者期間が20年以上ある社長は、65歳に到達したとき、その社長に生計を維持されている配偶者か子がいれば老齢厚生年金に加算して支給される年金をいいます。
「加給年金」も「在職老齢年金」に関係してきます。「在職老齢年金」が減額される場合は「加給年金」も受給できますが、全額支給停止される場合は「加給年金」も受給できなくなるからです。
- 老齢厚生年金が支給(一部支給)される場合 … 加給年金額は全額支給
- 老齢厚生年金が全額支給停止される場合 … 加給年金額も全額支給停止
特別支給の老齢厚生年金
老齢厚生年金が支給されるのは原則65歳からです。しかし、生年月日によっては65歳前に老齢厚生年金を受け取れます。それが「特別支給の老齢厚生年金」で、次の生年月日の人たちが受給できます。
- 1953(昭和28年)年4月2日~1961(昭和36年)年4月1日生まれの男性
- 1958(昭和33年)年4月2日~1966(昭和41年)年4月1日生まれの女性
令和4年4月からの年金制度改正によって、上記の生年月日の人たちは恩恵を受けます。「在職老齢年金」の支給停止基準額が月28万円から月47万円超に引き上げられたからです。逆にいうと、次の生年月日の人たちは「特別支給の老齢厚生年金」を支給されないため、制度改正の恩恵はないといえます。
- 1961年(昭和36年)4月2日以後生まれの男性
- 1966年(昭和41年)4月2日以後生まれの女性
在職老齢年金の計算方法
「在職老齢年金」は60歳以降も厚生年金に加入していて、収入がある人は「老齢年金」を減額あるいは全額支給停止します、という年金減額停止制度です。令和3年度までは、60歳代前半と65歳以降とでは減額あるいは全額支給停止の計算方法が異なりましたが、令和4年度から共通の計算方法になりました。
保険営業に必要な知識~令和4年4月からの年金制度改正のポイント解説
厚生年金は70歳までが加入対象ですが、「在職老齢年金制度」には年齢に上限はなく、報酬を受け取っている限り、何歳になっても、次の条件で年金の一部あるいは全額が支給停止されてしまいます。
- 基本月額 = 加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
- 総報酬月額相当額 =(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷ 12
基本月額 + 総報酬月額相当額 | 支給停止額 |
47万円以下 | 全額支給 |
47万円超 | (総報酬月額相当額+基本月額-47万円)×1/2 |
支給停止額の計算例
例えば、年金月額15万円・報酬月額60万円の65歳の社長がいたとします。すると、「在職老齢年金」で支給停止になる年金額は14万円になり、調整後の年金受給額は1万円(▲14万円)に減額されてしまいます。
- 支給停止額14万円 = ( 年金月額15万円 + 報酬月額60万円 - 47万円 )× 1/2
- 調整後の年金受給額1万円 = 年金月額15万円 - 支給停止額14万円
つまり、この社長は本来もらえるはずの月額15万円の年金がわずか1万円しかもらえないわけです。しかも、この状態は社長がたとえ70歳になって厚生年金の加入資格がなくなってもずっと続くのです。
在職老齢年金の支給額早見表
以下に、「在職老齢年金として受け取れる年金額早見表」を作成してあります。基本月額と総報酬月額相当額との関係で「いくら支給停止になるか?」の目安としてご確認ください。
社長のよくある勘違い
社長が「在職老齢年金」について勘違いしているケースが2つあります。ひとつは「減額や支給停止分は役員退任後にもらえばいい」と考えているケース。もうひとつは「役員報酬が高額だと年金そのものをもらえない」と考えているケースです。いずれも間違いです。以下、それぞれ解説を加えましょう。
- 「役員退任後にもらえばいい」
「在職老齢年金」で減額や支給停止になっている部分は、そのときに受給しておかないと後から受給できるということはありません。そういう意味では「二度と戻らない失われた年金」といえます。
- 「年金そのものをもらえない」
老齢基礎年金(国民年金)の部分は役員報酬がいくら高額であっても受給できます。これを勘違いして年金を受給しないままでいると、最大5年までしか訴求請求できませんので、要注意です。
この記事のまとめ
以上が法人保険を売るなら知っておきたい「改正後の在職老齢年金の仕組みと計算方法」です。中小企業の社長は役員報酬から厚生年金の被保険者分が天引きされます。その天引き額に会社負担分を加え、翌月末日迄に年金事務所に納付する。それを、毎月、毎月、繰り返していきます。その結果、こうなります。
納付期間 | 被保険者負担 | 会社負担 | 合計 |
1年 | 713,700円 | 713,700円 | 1,423,080円 |
10年 | 7,137,000円 | 7,137,000円 | 14,230,800円 |
20年 | 14,230,800円 | 14,230,800円 | 28,461,600円 |
30年 | 21,346,200円 | 21,346,200円 | 42,692,400円 |
40年 | 28,461,600円 | 28,461,600円 | 56,923,200円 |
上記のとおり、社長の合計保険料は相当な額になります。社長が56,923,200円の保険料を納付していたとして、プラス(年金額)とマイナス(保険料)で考えてみましょう。仮に、65歳から80歳まで老齢基礎年金を満額受給したならば、15年間の年金受給額は11,713,500円(令和4年度)になります。老齢基礎年金は社長の役員報酬がいくらでも受給年齢になればもらえますから、これはプラス要素といえます。
よって、保険料56,923,200円から老齢基礎年金の年金受給額11,713,500円を差し引きます。それでもまだ▲45,209,700円のマイナスです。ここで恐ろしい事実があります。それは、社長が何歳になっても、“現役”でいる限り、「▲45,209,700円を1円も取り戻せない!」という現実です。
これが社長にとっての「在職老齢年金」の問題です。保険営業マンはこの事実を知っておきましょう。以下の記事はそんな社長の問題を解決する一助になる方法です。ぜひ併せてお読みください。